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奥歯を抜歯と言われたら?
インプラントを回避し「親知らず」を移動させる矯正治療の可能性【6番欠損編】

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奥歯を抜歯と言われたら?
インプラントを回避し「親知らず」を移動させる矯正治療の可能性【6番欠損編】


「奥歯を抜いたらインプラントしかない」と言われた方へ


6番(第一大臼歯)は、咬み合わせにとても重要な歯です。
そのため、大きな虫歯、歯周病、神経の処置後の根の病巣、歯や歯根の破折などで保存が難しくなり、抜歯が必要になった場合、

「このスペースは大きいので、デンタルインプラントになりますね。」

と説明を受けるケースが少なくありません。

確かに、6番を抜歯すると 10mm以上の大きなスペース が生じるため、
一般的には

  • デンタルインプラント
  • ブリッジ
  • 義歯
    といった補綴治療が選択されることが多いのが現実です。

しかし、残っている歯の状態によっては、矯正治療によってそのスペースを閉じ、インプラントを回避できるケースがあります。

JOY矯正歯科クリニックでは、
このような「大臼歯抜歯後にインプラントを回避する矯正治療」を、比較的多く行っています。

本記事では、当院で行っている大臼歯を移動させる矯正治療と実際の症例について詳しく解説します。

目次

(各タイトルをクリックするとジャンプします。)


◆6番を抜歯すると、なぜ問題になるのか


6番は、永久歯の中で最も大きく、咬む力を強く受ける歯です。
この歯を抜歯すると、次のような問題が起こりやすくなります。

  • 約10~12mmの大きな欠損スペースが生じる。
  • 前後の歯が倒れ込んでくる。
  • 上の(下の)歯が伸びてきてしまう。
  • 咬み合わせ全体のバランスが崩れる

このため「放置はできない」、「補う治療(補綴治療)が必要」という判断になり、
インプラントが第一選択として提示されやすくなります。


「人工物で補う」のではなく「矯正治療で閉じる」という発想


インプラント治療は、失った歯を人工物で補う非常に優れた治療法です。
一方で、

  • 外科処置が必要。
  • 人工物を体の中に埋め込むため、長期的なメンテナンスが必須。
  • 年齢、埋入する部位の骨の状態、全身状態によっては制限がある。

といった側面もあります。

そこで矯正歯科治療では、
「人工物で補う」のではなく、「自分の歯を動かしてスペースそのものをなくす」
という選択肢をご提案できることがあります。

ただしこれは、どの症例でも可能な治療ではありません。
ポイントになるのが、7番(第二大臼歯)と親知らず(8番)の状態です。


【図解】下顎6番抜歯後に7番・8番を利用する2つのパターン


下顎6番を抜歯した後の歯の移動様式は、
残っている歯の状態によって、いくつかの「パターン」に分かれます。詳細については、まとめ編で詳しく解説したいと思いますが、ここでは、特に多い2つのパターンをご紹介します。


◆パターン①7番を手前に移動、親知らず(8番)を起こして利用


下顎6番を抜歯後、7番と親知らず(8番)を利用してインプラントを回避する矯正治療のパターン図①
矯正歯科治療で7番と水平埋伏する8番を移動させ、抜歯した6番のスペースを閉じてインプラントを回避する模式図。JOY矯正歯科クリニック

このパターン①は、

  • 7番がしっかり残っている。
  • 親知らず(8番)が埋伏している、または傾いている。
  • 骨や歯根の状態が比較的良好。

といった条件がそろった場合に成立します。

治療の考え方

  1. 抜歯した6番のスペースに向かって、7番を手前に移動。
  2. 横向き・斜めに埋まっている親知らず(8番)を矯正的に起こしながら、7番の位置に移動させる。


【症例1】パターン① 7番+横を向いた親知らずを利用したケース


治療開始前のレントゲン写真。左下6番は保存困難で、親知らずは横向きに埋伏している。
治療開始前のレントゲン写真
下顎6番抜歯を行い、矯正治療終了後のレントゲン写真。7番が12mm近く近心移動され、6番のスペースは無くなり、親知らずは上向きに並んでいる
治療後のレントゲン写真、左下6番のスペースは無くなり、左下8番は整直されている。
下顎6番抜歯前の口腔内写真。左下6番は保存困難で、親知らずは横向きに埋伏している
治療前:凸凹が顕著
下顎6番抜歯後、7番と親知らずを利用してスペースを閉鎖し、インプラントを回避した治療後の口腔内写真
治療後
下顎6番抜歯前の口腔内写真。左下6番は保存困難で、親知らずは横向きに埋伏している
治療前:上下4番と状態の悪い左下6番を抜歯
下顎6番抜歯後、7番と親知らずを利用してスペースを閉鎖し、インプラントを回避した治療後の口腔内写真
治療後:上の6番と下の7番の位置関係を治療前と比較してください。
下顎6番抜歯前の口腔内写真。左下6番は保存困難で、親知らずは横向きに埋伏している
治療前:凸凹が顕著なため上顎左右4番を抜歯
下顎6番抜歯後、7番と親知らずを利用してスペースを閉鎖し、インプラントを回避した治療後の口腔内写真
治療後:上顎左右8番は今後抜歯予定。
下顎6番抜歯前の口腔内写真。左下6番は保存困難で、親知らずは横向きに埋伏している
治療前:左右4番に加えて、状態の悪い左下6番を抜歯。
下顎6番抜歯後、7番と親知らずを利用してスペースを閉鎖し、インプラントを回避した治療後の口腔内写真
治療後:左下7番が手前に移動され、左下8番がしっかり上を向いて並んでいる。
横向きに埋伏していた左下親知らず(8番)を矯正的に起こすために、6番を抜歯する直前の口腔内写真
治療開始8.5か月:左下6番を抜歯する直前
横向きに埋伏していた左下親知らず(8番)を矯正的に起こして歯列に誘導している途中の口腔内写真
治療開始1年3か月:左下8番を起こしている途中

もともとは上下左右4番を抜歯してワイヤー矯正で歯並びを整えていましたが、
治療途中で 「状態の悪い左下6番を抜歯し、親知らずを利用したい」 というご希望がありました。

左下6番は約12.1mmと非常に大きく、
横向きに埋まっていた左下8番(親知らず)は一部だけ歯が見えている状態でした。

そこで、歯科矯正用アンカースクリューを固定源として7番を手前に移動し、
その後、横向きだった親知らずを起こして歯列に組み込みました。

結果

  • インプラントを使用せずにスペースを閉鎖
  • 天然歯のみで奥歯の咬み合わせを再構築
  • 治療期間は通常より延長(約3年6か月)

このように、条件がそろえば 親知らずは「抜く歯」ではなく「使える歯」 になります。

①主訴:歯のでこぼこ

②初診時年齢:21歳、男性

③診断名:叢生、上下顎前突

④抜歯部位:上下左右4番、左下6番

⑤治療に用いた主な装置:マルチブラケット装置、歯科矯正用アンカースクリュー

⑥動的治療期間・通院回数:3年6ヵ月・約30回

⑦治療費概算:約105万円(税込、検査・診断料+矯正治療費+大臼歯加算+スクリュー費用)+毎回の処置料3,300~5,500円(税込)

⑧リスクと副作用: 歯根吸収の可能性がある。大臼歯移動のため、通常より治療期間が延長する可能性が高い。


◆パターン②7番・8番の2本を手前に移動するパターン


下顎6番を抜歯後、7番と親知らず(8番)を利用してインプラントを回避する矯正治療のパターン図①

次にご紹介するのは、より応用的なパターンです。

このパターン②では、

  • 親知らずを「起こして使う」よりも
  • 7番と8番を2本とも大きく手前に移動 させます。

特徴

  • 移動量が非常に大きい。
  • 治療期間が長くなりやすい。
  • 7番や8番の移動中に手前に倒れやすいため、歯のコントロールが困難。
  • 状態により6番部の歯槽骨が痩せないように2段階に分けて6番を分割抜歯。


◆【症例2】パターン② 7番・8番を2本移動したケース


右下6番は神経の処置後で根尖病変があり、再治療が必要でしたが、本人がこの歯を抜歯し、8番を利用したいと来院されました。
そこで右下6番を抜歯し、健全な7番・8番をアンカースクリューを固定源にして
大きく手前へ移動させました。

注目すべき点は、
「前歯や小臼歯の位置がほとんど変わっていないにも関わらず、奥歯だけが大きく動いている」ことです。

この症例では、左下7番・8番の移動量が非常に大きいため、歯ぐきの骨が痩せるリスクを考慮し、

  • 左下6番を一度に抜歯しない。
  • 前方半分を残した「分割抜歯」を行って、右下7番を手前に移動させ、スペースが少なくなってから、手前半分の抜歯を行う。

という慎重な治療計画を立てました。

治療開始前のレントゲン写真。右下6番は根尖病巣があり、再治療が必要な状態。親知らずは上向きに生えている。
右下6番が神経の処置済みの歯で根尖病巣を認める。
治療後のレントゲン写真。右下6番は抜歯され、右下7番・8番が傾斜することなく近心移動されている。
右下7番、8番が大きく手前に移動している。手前に傾斜していないことに注目。
治療前の口腔内写真。右下6番は根治歯、根尖病巣があり再治療が必要なため抜歯し、右下7番・8番を近心移動させる。
右下6番を抜歯し、右下7・8番を手前に移動させる治療方針。
治療後の口腔内写真。右下6番は抜歯され、右下7番・8番が大きく近心移動されている。
上の5・6番の位置と比較して、下の7番・8番が大きく手前に移動していることに注目。
治療前の口腔内写真。右下6番は根治歯、根尖病巣があり再治療が必要なため抜歯し、右下7番・8番を近心移動させる。
治療後の口腔内写真。右下6番は抜歯され、右下7番・8番が大きく近心移動されている。
左側6番の位置と比較して、右の7番・8番が大きく手前に移動していることに注目。
治療前の口腔内写真。前歯部叢生を認め、一部反対咬合を認める。
治療後の口腔内写真。
非抜歯できれいに排列されている。
治療前の口腔内写真。前歯部叢生を認める。
治療後の口腔内写真。
非抜歯できれいに排列されている。

①主訴:歯のでこぼこ、歯を抜かずに、右下の奥歯は親知らずを利用したい。

②診断名:下顎前突症、反対咬合、叢生

③初診時年齢:27歳、男性、千葉より通院

④治療に用いた主な装置:マルチブラケット装置、歯科矯正用アンカースクリュー

⑤抜歯部位:上顎左右8番、右下6番

⑥動的治療期間・通院回数:3年6ヵ月・約36回

⑦治療費概算:約105万円(税込、検査・診断料+矯正治療費+大臼歯加算+スクリュー費)+毎回の処置料3,300~5,500円(税込)

⑧リスクと副作用: 歯根吸収の可能性がある。大臼歯移動のため、通常より治療期間が延長する可能性が高い。大臼歯抜歯に伴い、抜歯部の歯槽骨吸収の可能性がある。


【症例3】パターン② 下顎7番・8番を10mm以上移動した症例


この症例では、左下7番・8番を 10mm以上 手前に移動する必要がありました。
移動量が非常に大きいため、歯ぐきの骨が痩せるリスクを考慮し、症例2と同様に、左下6番を一度に抜歯しないで、後方半分を残した「分割抜歯」を行って、左下7番を手前に移動させ、スペースが少なくなってから、手前半分の抜歯を行う形としています。

治療前後の口腔内写真。左上下の4・5番の位置関係が変化していないにも関わらず、左下7・8番が10mm以上近心移動している。
治療開始2年2か月時の口腔内写真。左下6番の近心根を残して、遠心根のみ抜歯して、左下7・8番を近心移動している。
治療開始2年2か月時の口腔内写真。

①主訴:デンタルインプラントを避けたい。左下6番を抜歯して、親知らずを利用したい。

②診断名:叢生、下顎前歯先天欠如

③初診時年齢:25歳、男性

④治療に用いた主な装置:マルチブラケット装置、歯科矯正用アンカースクリュー

⑤抜歯部位:右上5番、左下6番、治療後に上顎左右8番抜歯予定

⑥動的治療期間・通院回数:4年6ヵ月・約40回(途中で通院できない期間があったため、通常より長くかかりました)

⑦治療費概算:約105万円(税込、検査・診断料+矯正治療費+大臼歯加算+スクリュー費)+毎回の処置料3,300~5,500円(税込)

⑧リスクと副作用: 歯根吸収の可能性がある。大臼歯移動のため、通常より治療期間が延長する可能性が高い。


親知らずは抜くしかない?条件次第で矯正に使えるケースがあります


一般的に親知らずは、

・横向き、または斜めに生えている。

・上手く磨けていないため、虫歯になっている。

・咬み合っていない

といった理由で抜歯対象になることが多い歯です。

しかし矯正歯科治療の視点で見ると、

・歯の大きさ

・歯や根の形

・骨の状態

が良ければ、非常に価値のある歯になることもあります。

5番、6番、7番の神経の処置をしている方は、親知らずが横を向いて埋まっていても、安易に抜歯しないで、一度ご相談に来ていただければと思います。親知らずを有効活用できることがあります。


大臼歯抜歯、親知らず利用の矯正治療のメリットと注意点


メリット

・自分の歯で噛める

人工物であるインプラントには寿命やインプラント周囲炎などのリスクがありますが、自分の歯であれば、適切なケアを行えば、一生使い続けることが期待できます。また、ブリッジの場合は、本来3本で支えるべき咬む力を2本で支えることになるため、負担過多になりやすいこと、作製する際の歯の削除量が大きいですが、作り直すたびにさらに削りなおすことになることなどから、歯への負担は大きくなります。

・費用を抑えられる可能性

インプラントの上部構造は、何度か作り直す可能性もありますし、ブリッジも何十年もそのまま使えるとは限りません。その度に費用が発生しますので、結果的に矯正治療の方が安く済む場合もあると思います。

・人工物を体の中に入れなくても済む

デンタルインプラントは人工物を体の中に埋め込む手術です。歯ぐきの粘膜を金属が貫通しているため、その部分で感染するリスクはあります。そのため、メンテナンスが必須となっています。患者さんの中には人工物を体の中に入れることに抵抗がある方もいらっしゃいます。

・外科処置をしなくて済む

デンタルインプラントを埋入する手術は外科処置となります。また、親知らずの抜歯も外科処置です。これらの処置が必要なくなります。

注意点

・この移動様式は非常に難易度が高くなります。行っている矯正歯科はそれほど多くないかもしれません。

・大臼歯は大きいため、動きにくいことに加え、移動量が大きくなるため、治療期間が長引く可能性が高くなります。

・抜歯部位の骨が痩せていたり、下がっていると、動かすのが困難になります。また、仮に動かせたとしても、動かした歯の周りの骨が下がってしまい、安定しないことがあります。

・残っている歯の状態が悪い場合は、適応でない場合もあります。

・長年埋まっている親知らずは、骨性癒着して動かせないことがあります。

重要なのは、精密検査と適応があるかどうかという診断です。


◆まとめ:インプラント以外の選択肢を「知った上で」決める


大臼歯を抜歯した場合、インプラントは確かに優れた治療法です。

一方で、

  • 残っている歯の条件が良ければ、矯正歯科治療によって、天然歯のみで咬み合わせを再構築できる

という選択肢も存在します。

大切なのは、
「インプラントしかない」と思い込む前に、別の可能性を知ること」

その上で、ご自身に合った治療を選んでいただければと思います。

ただし、難しい処置のため、あまり積極的に行っている矯正歯科は多くないかもしれません。

まずは、近隣の矯正歯科でご相談してみることをおススメします。

監修歯科医師のプロフィール