※この記事は少し専門的な内容を含みますが、
・6番を抜歯し、インプラントを勧められた方で、インプラントを回避したい方
・6番は神経の処置済みの歯で、親知らずが残っている方
を主な対象として書いています。
◆「奥歯を抜いたらインプラントしかない」と言われた方へ
6番(第一大臼歯)は、咬み合わせにとても重要な歯です。
そのため、大きな虫歯、歯周病、神経の処置後の根の病巣、歯や歯根の破折などで保存が難しくなり、抜歯が必要になった場合、
「このスペースは大きいので、デンタルインプラントになりますね。」
と説明を受けるケースが少なくありません。
確かに、6番を抜歯すると 10mm以上の大きなスペース が生じるため、
一般的には
・デンタルインプラント(人工歯根)
・ブリッジ
・義歯(入れ歯)
といった補綴治療が選択されることが多いのが現実です。
しかし、残っている歯の状態によっては、矯正治療によってそのスペースを閉じ、インプラントを回避できるケースがあります。
JOY矯正歯科クリニックでは、
このような「大臼歯抜歯後にインプラントを回避する矯正治療」を、比較的多く行っています。
本記事では、当院で行っている大臼歯を移動させる矯正治療と実際の症例について詳しく解説します。
※ちなみに、7番を抜歯してインプラントを回避したケースを知りたい方はこちら→https://www.joy-hanarabi.com/blog/4144.html)
目次
(各タイトルをクリックするとジャンプします。)
- 6番を抜歯すると、なぜ問題になるのか?
- 「抜歯後はインプラント」ではなく「矯正治療で閉じる」という発想
- 【図解】下顎6番抜歯後に7番・8番を利用する2つのパターン
- パターン①7番を手前に移動、親知らず(8番)を起こして利用
- 【症例1】パターン① 7番を移動させ、横を向いた親知らずを利用したケース
- パターン②7番・8番の2本を手前に移動するパターン
- 【症例2】パターン② 7番・8番を2本とも大きく移動したケース
- 【症例3】パターン② 下顎7番と8番を10mm以上移動したケース
- 親知らずは抜くしかない?条件次第で矯正に使えるケースがあります
- 大臼歯抜歯、親知らず利用の矯正治療のメリットと注意点
- まとめ:インプラント以外の選択肢を「知った上で」決める
- 監修歯科医師
◆6番を抜歯すると、なぜ問題になるのか?
6番は、永久歯の中で最も大きく、咬む力を強く受ける歯です。
この歯を抜歯すると、次のような問題が起こりやすくなります。
- 約10~12mmの大きな欠損スペースが生じる。
- 前後の歯が倒れ込んでくる。
- 上の(下の)歯が伸びてきてしまう。
- 咬み合わせ全体のバランスが崩れる
このため「放置はできない」、「補う治療(補綴治療)が必要」という判断になり、
インプラントが第一選択として提示されやすくなります。
◆「抜歯後はインプラント」ではなく「矯正治療で閉じる」という発想
インプラント治療は、失った歯を人工物で補う非常に優れた治療法です。
一方で、
- 外科処置が必要。
- 人工物を体の中に埋め込むため、長期的なメンテナンスが必須。
- 年齢、埋入する部位の骨の状態、全身状態によっては制限がある。
といった側面もあります。
そこで、
「抜歯後はインプラント」ではなく、「矯正治療で自分の歯を動かしてスペースを閉じる」
という選択肢をご提案できることがあります。
ただしこれは、どの症例でも可能な治療ではありません。
ポイントになるのが、7番(第二大臼歯)と親知らず(8番)の状態です。
◆【図解】下顎6番抜歯後に7番・8番を利用する2つのパターン
下顎6番を抜歯した後の歯の移動様式は、
残っている歯の状態によって、いくつかの「パターン」に分かれます。詳細については、まとめ編で詳しく解説したいと思いますが、ここでは、特に多い2つのパターンをご紹介します。
◆パターン①7番を手前に移動、親知らず(8番)を起こして利用

このパターン①の考え方は、
1. 抜歯した6番のスペースに向かって、7番を手前に移動。
2. 横向き・斜めに埋まっている親知らず(8番)を矯正的に起こしながら、7番の位置に移動させる。
3. 抜歯スペースを閉じて、デンタルインプラントやブリッジを回避する。
◆【症例1】パターン① 7番を移動させ、横を向いた親知らずを利用したケース












もともとは上下左右4番を抜歯してワイヤー矯正で歯並びを整えていましたが、
治療途中で 「状態の悪い左下6番を抜歯し、親知らずを利用したい」 というご希望がありました。
左下6番は約12.1mmと非常に大きく、
横向きに埋まっていた左下8番(親知らず)は一部だけ歯が見えている状態でした。
そこで、歯科矯正用アンカースクリューを固定源として7番を手前に移動し、
その後、横向きだった親知らずを起こして歯列に組み込みました。
結果
インプラントを使用せずにスペースを閉鎖
天然歯のみで奥歯の咬み合わせを再構築
治療期間は通常より延長(約3年6か月)
このように、条件がそろえば 親知らずは「抜く歯」ではなく「使える歯」 になります。
- 主訴:歯のでこぼこ
- 初診時年齢:21歳、男性
- 診断名:叢生、上下顎前突
- 抜歯部位:上下左右4番、左下6番
- 治療に用いた主な装置:マルチブラケット装置、歯科矯正用アンカースクリュー
- 動的治療期間・通院回数:3年6ヵ月・約30回
- 治療費概算:約105万円(税込、検査・診断料+矯正治療費+大臼歯加算+スクリュー費用)+毎回の処置料3,300~5,500円(税込)
- リスクと副作用: 歯根吸収の可能性がある。大臼歯移動のため、通常より治療期間が延長する可能性が高い。
◆パターン②7番・8番の2本を手前に移動するパターン

次にご紹介するのは、より応用的なパターンです。
このパターン②では、
- 親知らずを「起こして使う」よりも
- 7番と8番を2本とも大きく手前に移動 させます。
特徴
- 移動量が非常に大きい。
- 治療期間が長くなりやすい。
- 7番や8番の移動中に手前に倒れやすいため、歯のコントロールが困難。
- 状態により6番部の歯槽骨が痩せないように2段階に分けて6番を分割抜歯。
◆【症例2】パターン② 7番・8番を2本とも大きく移動したケース
右下6番は神経の処置後で根尖病変があり、再治療が必要でしたが、本人がこの歯を抜歯し、8番を利用したいと来院されました。
そこで右下6番を抜歯し、健全な7番・8番をアンカースクリューを固定源にして
大きく手前へ移動させました。
注目すべき点は、
「前歯や小臼歯の位置がほとんど変わっていないにも関わらず、奥歯だけが大きく動いている」ことです。
この症例では、左下7番・8番の移動量が非常に大きいため、歯ぐきの骨が痩せるリスクを考慮し、
- 左下6番を一度に抜歯しない。
- 前方半分を残した「分割抜歯」を行って、右下7番を手前に移動させ、スペースが少なくなってから、手前半分の抜歯を行う。
という慎重な治療計画を立てました。











- 主訴:歯のでこぼこ、歯を抜かずに、右下の奥歯は親知らずを利用したい。
- 診断名:下顎前突症、反対咬合、叢生
- 初診時年齢:27歳、男性、千葉より通院
- 治療に用いた主な装置:マルチブラケット装置、歯科矯正用アンカースクリュー
- 抜歯部位:上顎左右8番、右下6番
- 動的治療期間・通院回数:3年6ヵ月・約36回
- 治療費概算:約105万円(税込、検査・診断料+矯正治療費+大臼歯加算+スクリュー費)+毎回の処置料3,300~5,500円(税込)
- リスクと副作用: 歯根吸収の可能性がある。大臼歯移動のため、通常より治療期間が延長する可能性が高い。大臼歯抜歯に伴い、抜歯部の歯槽骨吸収の可能性がある。
◆【症例3】パターン② 下顎7番と8番を10mm以上移動したケース
この症例では、左下7番・8番を 10mm以上 手前に移動する必要がありました。
移動量が非常に大きいため、歯ぐきの骨が痩せるリスクを考慮し、症例2と同様に、左下6番を一度に抜歯しないで、後方半分を残した「分割抜歯」を行って、左下7番を手前に移動させ、スペースが少なくなってから、手前半分の抜歯を行う形としています。



- 主訴:デンタルインプラントを避けたい。左下6番を抜歯して、親知らずを利用したい。
- 診断名:叢生、下顎前歯先天欠如
- 初診時年齢:25歳、男性
- 治療に用いた主な装置:マルチブラケット装置、歯科矯正用アンカースクリュー
- 抜歯部位:右上5番、左下6番、治療後に上顎左右8番抜歯予定
- 動的治療期間・通院回数:4年6ヵ月・約40回(途中で通院できない期間があったため、通常より長くかかりました)
- 治療費概算:約105万円(税込、検査・診断料+矯正治療費+大臼歯加算+スクリュー費)+毎回の処置料3,300~5,500円(税込)
- リスクと副作用: 歯根吸収の可能性がある。大臼歯移動のため、通常より治療期間が延長する可能性が高い。
◆親知らずは抜くしかない?条件次第で矯正に使えるケースがあります
一般的に親知らずは、
・横向き、または斜めに生えている。
・上手く磨けていないため、虫歯になっている。
・咬み合っていない
といった理由で抜歯対象になることが多い歯です。
しかし矯正歯科治療の視点で見ると、
・歯の大きさ
・歯や根の形
・骨の状態
が良ければ、非常に価値のある歯になることもあります。
5番、6番、7番の神経の処置をしている方は、親知らずが横を向いて埋まっていても、安易に抜歯しないで、一度ご相談に来ていただければと思います。親知らずを有効活用できることがあります。
◆大臼歯抜歯、親知らず利用の矯正治療のメリットと注意点
メリット
・自分の歯で噛める
人工物であるインプラントには寿命やインプラント周囲炎などのリスクがありますが、自分の歯であれば、適切なケアを行えば、一生使い続けることが期待できます。また、ブリッジの場合は、本来3本で支えるべき咬む力を2本で支えることになるため、負担過多になりやすいこと、作製する際の歯の削除量が大きいですが、作り直すたびにさらに削りなおすことになることなどから、歯への負担は大きくなります。
・費用を抑えられる可能性
インプラントの上部構造は、何度か作り直す可能性もありますし、ブリッジも何十年もそのまま使えるとは限りません。その度に費用が発生しますので、結果的に矯正治療の方が安く済む場合もあると思います。
・人工物を体の中に入れなくても済む
デンタルインプラントは人工物を体の中に埋め込む手術です。歯ぐきの粘膜を金属が貫通しているため、その部分で感染するリスクはあります。そのため、メンテナンスが必須となっています。患者さんの中には人工物を体の中に入れることに抵抗がある方もいらっしゃいます。最近では、介護状態になった高齢の方では、十分なメンテナンスができないため、問題が生じ始めているようです。
・外科処置をしなくて済む
デンタルインプラントを埋入する手術は外科処置となります。また、親知らずの抜歯も外科処置です。これらの処置が必要なくなります。
注意点
・この移動様式は非常に難易度が高くなります。行っている矯正歯科はそれほど多くないかもしれません。
・大臼歯は大きいため、動きにくいことに加え、移動量が大きくなるため、治療期間が長引く可能性が高くなります。
・抜歯部位の骨が痩せていたり、下がっていると、動かすのが困難になります。また、仮に動かせたとしても、動かした歯の周りの骨が下がってしまい、安定しないことがあります。
・残っている歯の状態が悪い場合は、適応でない場合もあります。
・長年埋まっている親知らずは、骨性癒着して動かせないことがあります。
重要なのは、精密検査と適応があるかどうかという診断です。
◆よくある質問
Q:6番を抜歯したらふつうはどういう処置をしますか?
A:6番を抜歯したら、そのままだと、抜歯したスペースに向かって隣の歯が傾斜する、上の歯が延びだすなど、咬み合わせが崩れます。そのため、デンタルインプラント、ブリッジ、入れ歯といった補綴処置(ほてつしょち)を行うのが一般的な選択肢です。ブリッジは歯を削る量が大きく、入れ歯は患者様がご希望されないことも多いため、デンタルインプラントを選ぶことが多いかもしれません。
Q:このような治療は、どの歯医者でもやってくれますか?
A:矯正歯科を専門にしている歯科医師でも難しい部類の動かし方ですので、一般歯科では難しいかもしれません。また、大学病院で断られたと言って当院にお越しになる患者様もいますので、矯正歯科専門医院でも実践している医院は少ないのかもしれません。一度、近隣の矯正歯科で相談されると良いと思います。
◆まとめ:インプラント以外の選択肢を「知った上で」決める
大臼歯を抜歯した場合、インプラントは確かに優れた治療法です。
一方で、
残っている歯の条件が良ければ、矯正歯科治療によって、天然歯のみで咬み合わせを再構築できる
という選択肢も存在します。
大切なのは、
「インプラントしかない」と思い込む前に、別の可能性を知ること」。
その上で、ご自身に合った治療を選んでいただければと思います。
ただし、難しい処置のため、あまり積極的に行っている矯正歯科は多くないかもしれません。
6番を抜歯するとか親知らずの扱いに迷っている方は、安易にインプラントや親知らずの抜歯を決める前に、一度、矯正的な選択肢があるかを確認することをおすすめします。
※ちなみに7番を抜歯してインプラントを回避したケースを知りたい方はこちら→https://www.joy-hanarabi.com/blog/4033.html)
監修歯科医師

福山 英治(ふくやま えいじ)
JOY矯正歯科クリニック 院長
東京科学大学(旧 東京医科歯科大学)歯学部附属病院 矯正歯科外来に16年間在籍。
副診療科長・外来医長として、大学病院における矯正歯科診療の責任者を務めるとともに、多数の後進の指導と外来の運営統括に携わる。
現在はJOY矯正歯科クリニック院長として、大学病院水準の矯正治療を地域医療の現場で実践している。
東京医科歯科大学歯学部 臨床教授(2011~2015)
東京医科歯科大学歯学部 非常勤講師(2011~2017)
日本矯正歯科学会 指導医・認定医
日本顎関節学会 専門医
歯学博士
教育・大学での勤務歴
東京医科歯科大学歯学部附属病院
矯正歯科外来医員(1999)
横浜市立大学附属市民総合医療センター
歯科・口腔外科・矯正歯科 助手(2000)
単身にて矯正歯科部門新規設立
東京医科歯科大学咬合機能矯正学分野
助手(2004)同講師(2006)
東京医科歯科大学歯学部附属病院矯正歯科外来
副診療科長・外来医長(2006~2010)
医局員70数名を指導・後進育成および外来運営を統括
臨床歴
東京医科歯科大学歯学部卒業(1995)
医療法人小川矯正歯科を承継、理事長就任(2011)
医療法人社団邦英会JOY矯正クリニックに医院名改称
院長・理事長(2012)

